メーカー | SHARP | |
型名 | EL-509T-AX(-AXは青、-WXは白、-RXは赤) | |
種別 | 関数電卓 | |
発売開始 | 2016年10月21日 | |
製造終了 | - | |
寸法 |
奥行 166 mm × 幅 80 mm × 厚さ 15 mm(メーカー公表値。実測値と大差なし)
奥行 約169 mm × 幅 約86 mm × 厚さ 約18 mm(ハードケース背面装着時の実測値) |
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重量 |
108g(付属電池込みの公表値。実測値と一致)
139g(付属電池、ハードケース込みの実測値) |
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入力方式 | 教科書表示方式(自然表示方式)、ライン表示方式 | |
画面 | 青色液晶 96 × 32 画素+状態インジケーター20個 | |
CPU | JD106(CPUを含んだシステムチップだろう) | |
RAM | 不明 | |
ROM/Flash | 不明 | |
電源 | LR44 × 1+太陽電池 | |
プログラミング言語 | なし | |
公式ページ | 関数電卓 スタンダードモデル EL-509T | |
説明書URL | 取扱説明書ダウンロード│電卓│サポート・お問い合わせ:シャープ | |
著者の購入年 | 2018年9月 | |
著者の購入価格(購入店) | 1,598円(税込)(ビックカメラ有楽町店)ポイント10%還元あり |
2015年2月6日にカシオ計算機が fx-JP500/700/900 を発売し、それまでの関数電卓を全て時代遅れにしてしまいました。
シャープはそれに対抗して、2016年10月21日、教科書表示(自然表示)関数電卓の品種を一新しました。
それが EL-5160T, EL-520T, EL-509T です。
しかし、後発にも関わらず、CASIO fx-JP500/700/900 に性能的に及ばないのが実状です。
その代わり、以下のように価格は安くなっています。
SHARP | EL-5160T(税込 3,900円) | EL-520T(税込 2,500円) | EL-509T(税込 1,600円) |
CASIO | fx-JP900(税込 4,820円) | fx-JP700(税込 3,560円) | fx-JP500(税込 2,680円) |
本機 EL-509T は SHARP の教科書表示関数電卓の中で最も安い機種です。 それにも関わらず、前機種 EL-509M から多くの機能が追加されています。
今まで日本の関数電卓のレビューは短く書いてきたのですが、今回は長くなります。
EL-509T の仕様を調べているうちに SHARP 関数電卓の様々な問題点が明らかになってきたからです。
本機 EL-509T の立ち位置を理解していただくためにJ型関数電卓からT型関数電卓への変遷を説明します。
2011年8月25日、SHARPは関数電卓の品種を以下の4種類にしました。これらをJ型とします。
EL-5160J-X
(プログラマブル関数電卓)
EL-5060J-X(プログラマブル関数電卓)
EL-520J-X(スタンダード関数電卓)
EL-509J-X(スタンダード関数電卓)
(注意)SHARPのプログラマブル関数電卓はプログラミングができません。数式記憶のことをプログラマブルと称しているだけです。
これらJ型の関数電卓は、積分計算に誤差の出やすいシンプソン法を使うなど CASIO の先行機種 fx-373ES/573ES/913ES/993ES(2009年2月2日発売)と比べるとすでに後進面が目立ちました(CASIOはすでにガウス=クロンロッド法を採用)。
このときの教科書表示(自然表示)関数電卓はある問題を抱えていました。
計算結果を分数形式あるいは無理数形式(√、π)で表示してしまうので、実務や実験で使うには不便だったのです。
もちろん特定のキーを押すことによって小数点表示に変換できますが、計算量が多い場合は操作に手間がかかりました。
2012年12月14日、CASIO
fx-375ES
/
915ES
/995ES が発売されました。
fx-375ES/915ES/995ES は計算結果を強制的に小数点表示する機能を搭載したのです(設定が必要)。
2014年1月24日、SHARP は同様の問題を解決するためにスタンダード関数電卓だけをM型に更新しました。
そのため、以下の4機種が当時の現行機となりました。
EL-5160J-X
(プログラマブル関数電卓)
EL-5060J-X(プログラマブル関数電卓)
EL-520M-X(スタンダード関数電卓)
EL-509M-X(スタンダード関数電卓)
CASIO から1年ほど遅れて、SHARPのM型は計算結果を強制的に小数点表示する機能を搭載したのです(設定が必要)。
しかし、M型はそれ以外にたいした進歩のない機種でした。
他には単位換算の種類が166(83組)から222(111組)へ増えた程度でした(EL-5160J-Xと同数になった)。
プログラマブル関数電卓はJ型のままなので、計算結果を分数形式あるいは無理数形式(√、π)で表示してしまう問題は完全に解決されませんでした。
2015年2月6日、CASIO が fx-JP500/700/900 を発売し、従来の関数電卓を全て時代遅れにしてしまいました。
それらは、太陽電池で動作するにも関わらず、従来の関数電卓より遥かに高速に動作し、高解像度液晶画面で表示される日本語表示は関数電卓の操作を格段に分かりやすくしました。
2016年10月21日、SHARPは関数電卓の品種を一新しました。これがT型です。
EL-5160T-X(プログラマブル関数電卓)
EL-520T-X(スタンダード関数電卓)
EL-509T-WX/AX/RX(スタンダード関数電卓)
T型は CASIO fx-JP500/700/900 の影響を受けており、特に日本語表示可能になったことが特徴です。さらに機能も多く増えています。
しかし、液晶解像度は低いままであり、積分計算に未だに精度の低いシンプソン法を使っているなど CASIO fx-JP500/700/900 に及ばないのが実情です。
このページでは、T型の中で最も低価格である EL-509T について説明します。
EL-509M から EL-509T に移行するにあたって追加された機能は以下の通りです。
さらに以下の改良点もあります。
追加機能の1,7,8,10は CASIO fx-JP500/700/900 の影響を受けたであろう機能です。
2,4,9,12,13は、本機 EL-509T より4年ほど前に発売されて価格も近い
CASIO fx-375ES
にも搭載されている機能であり、EL-509T がようやく追いついたと言えます。
驚くべきは、T型になるまで商余り計算(int÷)がかつての最上位機種
EL-5160J-X
にもなかったことです。
13の循環小数の表示しかできないという点では、循環小数の入力もできる CASIO fx-375ES より未だに遅れています。
ちなみに EL-509T の % と (%) は別の機能です。% は一般電卓のように入力した時点でパーセント計算を開始します。(%) は数値の後ろに付加して数値を百分率にする機能です。
3,5,6は CASIO fx-375ES にない機能です。
3,5,6は下表のように低価格の関数電卓だと搭載されていないことが多いのです(fx-JP500 は低価格帯ではないが、参考として記載した)。
機種名 | 3. 整数関連機能 | 5. Π(総乗) | 6. 素因数分解 |
---|---|---|---|
SHARP EL-509T(税込 1,600円) | ○ | ○ | ○ |
CASIO fx-375ES(税込 1,580円) | × | × | × |
Canon F-789SG(税込 1,850円) | × | ○ | × |
CASIO fx-JP500(税込 2,680円) | × | × | ○ |
上表のように 3,5,6 が低価格の本機 EL-509T に搭載されたことによって、今後発売される他社も含めた低価格の関数電卓の機能が底上げされる可能性があります。
11は SHARP 独自の機能です。
EL-509T は一般、統計、数表、複素数、そして連立・高次方程式の5つのモードを持っています。
どのモードにいても [HOME] キーを押すだけで、最も頻繁に使う一般モードに移動できます。
しかし、EL-509T はモード切替によって、切替前のモードの記憶をおおよそ消去してしまうので、不用意に押してしまうと作業が台なしになる可能性もあります。
日本語表示が可能になって、J型とM型のような英語の省略語より分かりやすくなったと言えるでしょう。
モード選択画面の一部 | セットアップメニューの一部 |
英語で表示した場合、幅の短い書体を使って省略語を回避することがあります(下の右の写真)。
モード選択画面の一部(英語) | セットアップメニューの一部(英語) |
しかし、画面解像度が低いため
CASIO fx-JP500/700/900
と比べると画面が見辛いのが実状です。
画面解像度が低いのに日本語表示を採用した副作用で表示文字数が減ることもあります。
前機種 EL-509M-X の場合、単位換算(222種類・111組)が「長さ」「面積」などに分類されておらず、全ての単位換算が一列に並んでいるだけでした。 そのため、ハードケースに貼られている分類表シールを見ないと単位換算を探すのが困難でした。
本機 EL-509T はその分類表シールがなくなり、液晶画面の表示だけで単位換算や物理定数の選択が可能です。
単位換算(302種類・151組)は下の写真のように分類されており、探しやすくなっています。
単位換算の分類の選択 | 単位換算の「長さ」の選択 |
物理定数も液晶画面の表示だけで選択可能です。
EL-509T の52種類の物理定数は、国際単位系の単位が表示されます。
さらに上下キーを押す毎に3行ずつ移動できるので、何とか画面上で探すことができます。
物理定数の選択 |
しかし、物理定数の記号の意味が分からないときは説明書が必要になります。それは他社の機種でも一緒です(2018年9月下旬現在)。
CASIO fx-375ES
の場合、ハードケースのリファレンスラベルを参照しないと、単位換算や物理定数の選択が完全にできません。
Canon F-789SG
の場合、単位換算の選択は液晶画面だけで可能ですが、物理定数(科学定数)の選択はハードケースのクイックリファレンスがないと手間がかかります(無理すれば、クイックリファレンスなしでも選択できなくはない)。
本機 EL-509T のような低価格機で印刷物が不要になったのは素晴らしいことです。
J型やM型は、統計データの編集を表形式ですることができませんでした。
EL-5160J-X で統計データを編集 |
T型でようやく統計データを表形式で編集できるようになりました。
EL-509T で統計データを編集 |
CASIO は fx-82ES(
2004年発売
)のときから同様の機能(STATエディタ)を搭載していたので、SHARP は12年遅れということになります。
SHARP がこの機能の搭載を12年も見送っていたのは驚きです。
私が経験した CASIO の関数電卓(fx-375ES, fx-915ES, fx-JP900)は机に置いてキーを打つと筐体が揺れます。
筐体が歪んでいるからです。そのため、机に置くとキーが打ちにくく感じます。
個体差かもしれませんが、特に fx-375ES の揺れは酷くて机に置いて打つのが苦痛になるくらいです。
CASIO の関数電卓は、他社製品よりも筐体が薄いからかもしれません。
Canon F-789SG は、CASIO の関数電卓よりもマシですが、多少筐体に歪みがあります。
一方、
TI-36X Pro
, SHARP EL-5160J-X は机に置いてキーを打っても筐体が揺れません。
EL-509T はそれらよりも低価格ですが、それらと同様に安定してキーを打てます。
本機 EL-509T に限らず、SHARP の全ての教科書表示(自然表示)関数電卓は未だに積分計算のためにシンプソン法を使っています(2018年9月下旬現在)。
シンプソン法は積分区間を均等に分割し、分割された関数を二次関数で近似して積分値を求めます。
そのため、分割区間内で関数の変化が激しい場合、大きな誤差が出ます。
シンプソン法で正確な値を出す場合は、分割数を増やすしかありませんが、適切な分割数を事前に把握する方法はありません。
つまり、シンプソン法に実用性はないのです。
一方、CASIO や Canon の関数電卓で使っているガウス=クロンロッド法は、積分区間を分割するのは一緒ですが、分割された各区間の誤差を推定することが可能です。
そのため、誤差が許容範囲に収まるまで部分的に分割数を増やして行くことができます。
その結果、積分される関数の変化が激しい区間は分割数が多くなり、関数の変化が緩やかな区間は分割数を少なくできます。
このため、高精度かつ高速な積分計算が可能となります。
その反面、積分区間のどの部分をどの程度分割するのかという一覧表をメモリ上に作成する必要があるので、大きなメモリが必要になります。メモリが不足するとエラーになります。
しかし、メモリが安くなった現在、瑣末(さまつ)なことと言えます。
CASIO は少なくとも fx-373ES/573ES/913ES/993ES(2009年2月2日発売)でガウス=クロンロッド法に対応しています。
「積分計算なんて必要ない」という人も多いかもしれませんが、積分計算が搭載されている以上は正確な値を出すべきでしょう。
SHARP 関数電卓の積分計算の酷さは、「 電卓ベンチマーク02(三角関数を含んだ式の積分) 」を参照してください。
SHARP、CASIO、そして Canon の教科書表示(自然表示)関数電卓は微分計算に中心差分法を使っています(2018年9月下旬現在)。
関数 f(x) の微分 f '(x) は中心差分法において以下のように定義されています。
中心差分法は引き算を使うので、適切な dx の大きさを選ばないと桁落ちが発生しやすくなります。
しかし、SHARP の関数電卓は総じて微小区間 dx の自動調整ができません(2018年9月下旬現在)。
EL-509T の場合、デフォルト設定で x=0 のとき dx = 10
-5
になっています(x≠0 のときは dx = |x|×10
-5
)。
dx の大きさは手動でのみ変更できます。
そのため、SHARP の関数電卓は dx の大きさが適切かどうかを考えずに上の式で f '(x) を求めてしまいます。
一方、
CASIO fx-375ES
の説明書によると、誤差が許容誤差範囲(tol)に入るまで計算を続けるようなことが書かれています。
それが何を意味しているのかは明確に書かれていないのですが、微小区間 dx の大きさを自動的に調整して誤差を減らすように試みている可能性があります。同説明書によると、それでも解が収束しないときだけ、許容誤差範囲(tol)を自動調整すると書かれています(つまり妥協するということ)。
それでは SHARP EL-509T と他の機種で微分の精度を確認してみましょう。
f(x) = x
1.1
としたとき、x=1000 のときの f '(x) を求めてみましょう。
SHARP EL-509T | 2.19478856 |
SHARP EL-5160J-X | 2.19478856 |
CASIO fx-375ES | 2.194788546 |
CASIO fx-JP900 | 2.194788546 |
Canon F-789SG | 2.194788546 |
wxMaxima (PC) | 2.194788546465769(基準値) |
数式処理ソフト wxMaxima の値を基準にすると、EL-509T と
EL-5160J-X
は多少の誤差があるようです。
しかも桁落ちしたせいか有効桁数が9桁しかありません。
上表を見る限り、T型の微分計算はJ型から進歩していないようです。
では、EL-509T の dx を手動で変えて見ましょう。
x=1000 としているので、デフォルトだと、dx = |1000|×10
-5
です。
それを dx = |1000|×10
-6
にしてみましょう。これで精度が上がるかもしれません。
EL-509T で dx = |1000|×10 -6 に指定 | dx = |1000|×10 -6 にしたときの結果 |
しかし、結果は 2.1947888 という却っておかしな数値になりました。
おそらくは dx が縮小したので、中心差分法の引き算で桁落ちしやすくなったのでしょう。
次は dx = |1000|×10
-4
で計算してみましょう。dx が大きくなったので、これで桁落ちし難くなるはずです。
その結果は
2.194788543
と改善しました(それでも CASIO や Canon の電卓に及ばないが)。
しかし、このように dx の大きさを手動で調整するのは実用的とは言えないのです。
正しい値が事前に分かっていないと調整しようがないからです。
CASIO のように dx の大きさを自動調整してくれればいいのですが。
この問題は本機 EL-509T に限らず、上位機種の EL-5160T-X も同様です。
SHARP の関数電卓は微分計算の実装も他社より古いのが実状です(2018年9月下旬現在)。
「連立・高次方程式ソルバー」は「ソルバー機能(ニュートン法)」と完全に別の機能です。
「連立・高次方程式ソルバー」はニュートン法を使いません。逆行列(3×3まで)と高次方程式の一般解(3次まで)を使います。
例えば、本機 EL-509T の連立・高次方程式ソルバーを使って以下の連立方程式を解くとしましょう。
a
1
x + b
1
y + c
1
z = d
1
a
2
x + b
2
y + c
2
z = d
2
a
3
x + b
3
y + c
3
z = d
3
このように係数を順番に入力する必要があります。いくらなんでもこれは時代遅れすぎるのでは?
CASIO fx-375ES では下の写真のようにGUI的に入力できます(係数エディタ)。
上の CASIO fx-375ES の場合、連立方程式を想像して係数を入力できます。
本機 EL-509T は、高次方程式(例えば、ax
3
+ bx
2
+ cx + d = 0)においても上と同様に係数(a, b, c, d)を順番に入力する必要があります。
一方、CASIO fx-375ES は高次方程式においても係数エディタが使えます。
CASIO の教科書表示(自然表示)関数電卓は、少なくとも fx-373ES/573ES/913ES/993ES(2009年2月2日発売)から係数エディタが使えます。
前述のように本機 EL-509T は印刷物を見なくても単位換算の選択が可能です。
それでは、15 inch を cm 単位に変換して見ましょう。
15と入力してから単位換算の記号を入力します。
ここで 001 と入力(inch → cm) | 計算画面に単位換算記号が入力された |
あれ?選択画面で 001:in→cm と表示されていたのに計算画面上で →cv001 に変わってしまっています。
では[=]キーを押して答えを求めましょう。
これで 15 inch = 38.1 cm と分かりました。 しかし、単位換算記号が →cv001 なので、一見すると何をやっているのか分かりません。
一方、 CASIO fx-375ES で同じことをしてみましょう。
fx-375ES の場合、ハードケースに貼り付けているリファレンスラベルを参照するのは面倒ですが、計算画面上の表示はこちらの方が親切です。
ちなみに CASIO fx-JP500 だと、リファレンスラベル不要かつ単位換算記号も fx-375ES と同様に表示されます。
EL-509T は基板にチップ抵抗を付けると上位機種の EL-5160T に改造できます。
詳細は下のリンクをクリックしてください。
SHARP EL-509T を EL-5160T へ改造
本機 EL-509T は、前機種の EL-509M-X から多くの改良がされています。
他社も含めて低価格帯の機種にあまり搭載されていない機能(整数関連関数、Π(総乗)、素因数分解)が搭載されているのは魅力的です(他社の高価格帯の関数電卓では当然の機能ではあるが)。
SHARP の過去の関数電卓(J型とM型)の後進的だった面も一部改善されています。
2016年9月まで SHARP 関数電卓の最上位機種だった
EL-5160J-X
ですら、整数関連関数とΠ(総乗)と商余り計算を搭載していなかったのですからT型によってかなり改善したことになります。
統計データを表形式で編集できるようになったこともかなりの改善でしょう。
一方、問題もあります。
本機 EL-509T は関数電卓としての基本的な作りが良くありません。
微積分の計算精度が低いのです。特に積分は未だに後進的なシンプソン法を使っているせいで実用性はないと言えるでしょう。
しかも EL-509T の内部精度は14桁にすぎません。
CASIO fx-375ES
は15桁、
Canon F-789SG
は最大18桁です。
前述のようにソルバー機能(ニュートン法)、連立・高次方程式ソルバー、そして単位換算の記号にも後進的なところが残っています。
本機 EL-509T を含むT型関数電卓は、J型とM型の後進的な面をある程度改善したのは確かです。
しかし、EL-509T は、価格的にライバル機と思われる CASIO fx-375ES や Canon F-789SG と比べて明確な利点がありません。
EL-509T は、電源OFFしても状態を維持できるという利点はあります(CASIO と Canon の関数電卓は状態を維持できない)。しかし、モード切替で状態がクリアされてしまうので中途半端な利点です(ちなみに
TI-36X Pro
はリセットをしない限り、絶対に状態をクリアすることがない)。
電源OFFしても状態を維持できる機能のせいで一部の資格試験で持ち込み禁止になっていることに注意する必要もあります。
CASIO fx-375ES の機能数は EL-509T のそれよりも少ないと言えます。その反面、関数電卓としての基本的な作りは EL-509T よりも優れています。計算精度は総じて EL-509T を上回っています。
Canon F-789SG はベクトルと行列の演算ができますので、機能数で EL-509T に勝っています。計算精度も上です。F-789SG はΠ(総乗)もあります。EL-509T と比べてない機能と言えば、日本語表示と整数関連関数と素因数分解くらいでしょう。
正直、本機 EL-509T をどのような人に勧めれば良いのかよく分かりません。
積分計算を必要とするなら最初から選択肢に入れるべきではありません(上位機種の EL-5160T と EL-520T も一緒)。
2018年9月現在、低価格機で日本語表示を搭載しているのは EL-509T だけなので、英語の省略語を読みたくない人にはいいかもしれません。
あるいは SHARP の関数電卓になれているので、SHARP 製品を使い続けたい人くらいでしょうか。
SHARP の最新関数電卓のT型がこのような状況なのは残念です。
2017年度の連結売上高が約2.4兆円もある SHARP からすると電卓の売上なんてどうでもいいのかもしれません。
SHARP の電卓だけの売上は公表されていませんが、CASIO の2017年度の電卓の売上は約427億円なので、それよりもかなり少ないことでしょう。
しかし、電卓の販売を継続する以上は購入者を満足させるものを販売するべきではないでしょうか。
SHARP にとって関数電卓の開発費なんてたいした金額ではないと思うのですが。
ちなみにインターネットで SHARP 電卓の凋落をその親会社の鴻海精密工業のせいにしている人を見かけましたが、鴻海は無関係だと思います。
2011年に登場した SHARP のJ型関数電卓は、その2年以上前に登場した fx-373ES/573ES/913ES/993ES から何周も遅れたような完成度でした。
SHARP が鴻海精密工業傘下になったのは2016年ですから明らかに鴻海とは無関係です。