下の写真のように EL-509T を機能的に EL-5160T へ改造できます(5~8 は EL-509T に存在しないモードです)。
改造によって増える機能は以下の通りです(機能名は説明書による)。
ただし、EL-5160T の前面パネルの文字は、EL-509T に加えて、以下の文字が追加されています。
EL-509T を改造してもこれらの文字が不足することになりますので、ご注意ください。
目的は関数電卓 SHARP EL-509T を EL-5160T へ改造可能かどうかを検証することです。
EL-5160T を安く入手するために改造するのではありません。
EL-509T の基板の一箇所にチップ抵抗器をハンダ付けすると、機能的に EL-5160T になります。
しかし、ハンダ付けをしたことのない人がこの改造をするのは極めて困難と思われます。
SHARP も改造をやり難くするために1005サイズ(1.0mm×0.5mm)のチップ抵抗器を意図的に採用している可能性があります。
2018年10月10日現在のヨドバシ.comによると、EL-509T が1,600円、EL-5160T が3,900円なので、その差額は2,300円です。
工具が全部揃っていない状態で改造すると却って金がかかります。
この改造をするとメーカー保証が無効になります。
筆者が使用した工具を紹介します。推奨できない工具も含まれます。
メーカー不明。入手経緯も不明です。安価な精密ドライバーと思われます。
今回使用したのは左から2番目の+ドライバーだけです。
右の写真の三角形のオープナーだけを使います。他の工具は使いません。
マルツ(マルツエレック株式会社)の子会社 Linkman が販売している非常に安価なヘッドセットルーペです(筆者は税込672円で購入)。
見た目は安っぽいのですが、普通に使えます。拡大率は2.5倍です。
しかし、これを使っても1005サイズ(1.0mm×0.5mm)のチップ抵抗器のハンダ付けは容易ではありませんでした。
品番不明です。先の細いピンセットです。
しかし、電子工作用の精密ピンセットに比べれば先が太いので、これを使うべきではありませんでした。
10年以上前に買ったと思われます。メーカーも品番も不明です(メーカーは HAKKO だったような気がする)。
安定してハンダコテを置けます。水を含んだ黄色いスポンジでハンダコテを掃除できます。
先の細いハンダコテです。出力は20Wです。
思ったよりも火力が弱く、ハンダを融かしにくい感じでした。
20年以上前に買った古いテスターです。Windward Products というアメリカ合衆国のメーカーの製品です。
測定コードは新品に替えています。
幅0.8mmを自称していますが、実際に測定すると1.3mm〜1.4mm程度の幅があります。
何故なのかはよく分かりません。
もっと細いハンダを使うべきだったかもしれません。
ここに書いた分解方法は一例です。これが正解という訳ではありません。
最初にネジを外します。ただし、ネジを外すだけでは分解できません。
筆者は下の写真のようにネジとネジ穴の対応関係を保存しておきました。
ネジ穴とネジの相性があるかもしれないからです。
このようなことをする人はあまりいないでしょうけど、筆者は念のためこうしました。
前面パネルは、下の写真のようにツメで固定されています。
そのため、ツメを意識して前面パネルを外す必要があります。
前面パネルの上部に隙間があいていない場合、下の写真のように電池を押します。壊さないように適度な強さで押します。
(電池を押さなくても隙間があいている場合は押す必要はありません)
すると、前面パネルの上部に隙間があきます。
この隙間にオープナーを入れてツメを外します。
下の写真のように前面パネルが浮き上がったら電卓上部のツメは外れています(無理に押さないでください)。
この時点で電池ホルダーが電池を保持できなくなるので、電池は外しておきます。
これで前面パネルが浮くので、別の場所にも隙間ができます。
今回は前面パネルの右下に隙間ができていたので、そこにオープナーを入れて前面パネルを持ち上げました(個体によって隙間ができる場所は変わるかもしれません)。
さらにオープナーを使って前面パネルの右側を完全に浮かします。
これで前面パネルは簡単に外れます。
前面パネルの裏側が基板になっています。
改造方法は基板に丁寧に印刷されています。
上の表の下から3行だけが日本向けのモデルです。
この表から以下のことが読み取れます。
ランドとは基板の銅箔が露出した部分です。
ただし、下の写真のようにR30ランドとR31ランドにハンダが載っているので、銅箔はあまり見えません。
今回は EL-5160T にしたいので、R31ランドだけに抵抗器を付けることになります。
筆者が電子工作をしていたのは10年以上前なので、ハンダ付けをするのは久しぶりです。
しかも今回のような小さなチップ抵抗器を扱ったのは初めてです。
今回使用するチップ抵抗器は、【RK73H1ETTP103F】「1005角形チップ抵抗器 RK73H 10kΩ 0.1W ±1%」です。
マルツオンラインで税込54円(10個)+送料486円=合計540円で購入しました。
1005は、1.0mm×0.5mm を意味するので、非常に小さいものです。
ピンセットの先端やハンダコテ KS-20R の先端と比べても小さく感じます。
この作業はヘッドセットルーペ TK1002 が必要です。
しかし、拡大率2.5倍のヘッドセットルーペだと作業が楽になるという程度であり、ハンダ付けの状態は確認できません。
本当は実体顕微鏡を使ってやるべきかもしれません。しかし、実体顕微鏡は高価なので、今回は購入しませんでした。
そのため、ハンダ付けをする度にデジタルカメラでマクロ撮影してハンダ付けの状態を確認する必要がありました。
こんなに小さなチップ抵抗器をハンダ付けしたのは初めてだったので、非常に苦戦しました。
チップ抵抗器が小さくてヘッドセットルーペを使っても見辛い上にR31ランドが狭いのです。
何度かやり直して、今回は下の写真のような感じで妥協しました。
試行錯誤して偶然ついたような感じでした。
やり直しをしたせいでR31ランドの周辺がハンダのヤニで汚れています。
しかし、ヤニは電子回路に悪影響を与えませんので、神経質になる必要もないでしょう。
組み立てる前にテストが必要です。
電池を搭載しなくても太陽電池にデスクライトを照射するだけで EL-509T は動作します。
MODEキーを押してから下カーソルキーを2回押してモード画面の一番下まで表示します。
下の写真のようにモード画面にドリルが表示されていれば、EL-5160T になっています。ドリルは EL-5160T だけのモードです。
チップ抵抗器はR31ランドに接続できているようです。
さらにチップ抵抗器の抵抗値を確認してみました。
9.97kΩと表示されています。10kΩに対して誤差は-0.3%。誤差±1%以内なので抵抗器の仕様通りです。
ただし、こんなに精度の高い抵抗器を使う必要はないと思われます。誤差±5%の抵抗器でも十分動作すると思われます。
抵抗値が確認できたので、短絡はしていないことになります。
基本的には分解と逆の手順を行うだけです。 そのため、たいして語ることはありません。
ただし、ネジの締め方だけ説明させてください。
一般的にネジは右に回せば締まります(逆ネジでない場合)。当たり前ですよね。
しかし、いきなり右に回すとネジを斜めにねじ込んでしまう可能性が高くなります。
そのため、最初は左にゆっくりと回し、「カコン」という音がするまで回します。
それから右にゆっくりと回すと斜めに入り難くなります(斜めに入らないという訳ではない)。
ネジを強く押さないのがコツです。
このネジの締め方は、筆者が1990年代後半に通信機メーカーにいたときに教わったものです。
しかし、ネットでこの方法が書かれたページが見つけられなかったので、一応書いておきます。
組み立て後もテストをしました。
電池挿入時とリセット時に電卓がR31ランドに付けた抵抗器を検出している可能性が高いので、リセットと動作確認を繰り返しました。
それでも問題なく EL-5160T として動作しました。
SHARP EL-509T を EL-5160T に改造することができました。 機能が大幅に増えました。
しかし、残念なことに演算速度は向上しませんでした。 EL-509T も EL-5160T も演算速度は同一なようです。
さらに意外なことに古いJ型よりも新しいT型の方が少し低速なのです。
「
電卓ベンチマーク01(三角関数を含んだ式の総和)
」の「
測定結果
n = 10
4
」によると、EL-5160J-X と比べて新しい EL-509T-AX の方が 6% 程度遅いという結果になっています。
おそらくJ型、M型、T型も半導体は同じものを使っており、新しいT型からファームウェアが複雑になったので、T型は少し性能が低下したのかもしれません。
2007年に登場したS型の半導体については不明ですが、J型(2011年)からT型(2016年)まで半導体が変わっていないのは悲しいものです。
筆者としては SHARP が本気で作った関数電卓を見てみたいものです。