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翻訳:アメリカのグラフ電卓事情(テキサス・インスツルメンツ社の独占)

ワシントンポストに掲載された記事を自分で翻訳してみました。

2014年9月の記事ですので少し古いのですが、アメリカ合衆国のグラフ電卓事情がよくわかる記事です。

翻訳が下手だと思われた時はご容赦ください。

 

(引用元) The unstoppable TI-84 Plus: How an outdated calculator still holds a monopoly on classrooms


「TI-84 Plus は止められない:時代遅れの電卓がどのようにして未だに教室内で独占を維持しているのか」

2014年9月2日 マット・マクファーランド(Matt McFarland)氏による記事

技術の過酷な競争の世界で企業は市場に最新ガジェットを次々と投入し、競争力を維持するために値下げをする。しかし、TI-84 Plus は例外である。

テキサス・インスツルメンツ社は2004年にそのグラフ電卓を販売した。そして、現在までそれを売り続けている。
基本モデルは未だに480KBのフラッシュROMと24KBのRAMしか搭載していない。
(訳注:ここで書かれているROMとRAMはユーザー利用可能領域のみであり、物理的なROMとRAMはもっと多い。物理的なフラッシュROMは1MBである。物理的なRAMは初期型が128KBであったが、その後コストダウンのために48KBに削減されている。どちらにしてもユーザー利用可能領域は24KBなので、ユーザーから見ると仕様は同一と言える。)
その白黒画面は96×64画素のままである。
10年間の間、希望小売価格(MSRP)は$150を維持してきたが、小売店によって実売価格は異なる。現在では一般的に$90から$120の間で売られている。
唯一の変化はファームウェアの更新があっただけである。
(訳注:厳密に言うと前の訳注に書いたように物理RAM容量も変化している。)

アマゾンはTI-84 Plus を「売上No.1」と呼んでいる。
テキサス・インスツルメンツ社は「今年(2014年)、TI-84 Plus C Silver Edition は最も売れる電卓になっています。そして、TI-84シリーズは最も普及している電卓シリーズです。」と言う。
TI-84 Plus C Silver Edition は基本モデルよりも多少高価であり、カラー画面、充電式バッテリー、そして大幅に増加したメモリーを搭載している。

TI-84 Plus C Silver Edition は320×240画素の画面、128KBのRAM、そして4MBのROMを搭載しているとは言え、TI-84シリーズ電卓は使われている部品の割には必要以上に高価である。
(訳注:前述の基本モデルのときはROMとRAMのユーザー利用可能領域のみが書かれていた。ところがここでは物理的なROMとRAMの容量が書かれている。記者の理解不足だろう。)
アップル(製品に高額なマージンを取ることで悪評高い)は、iPod Touchを$199で販売している。それは16GBのメモリと1136×640画素の4インチ画面を搭載している。
iPod Touchは価格と製品原価の間に激しい差の少ない非常に良質なハードウェアである。

家電製品はほとんど例外なく時間の経過とともに安くなる。
しかし、学校の教室で使われるグラフ電卓を独占している事実があるので、テキサス・インスツルメンツ社はプレミアム価格をつけることができる。
NPDデータによると、テキサス・インスツルメンツ社は2013年7月~2014年6月の間にアメリカ合衆国のグラフ電卓の売上の93%を占めていた。
カシオ計算機は残りの7%を占めていた。
その期間に160万台のグラフ電卓が販売された。
2011年7月~2012年6月の間に167万台が売れたときと比べると減少している。

電卓事業はテキサス・インスツルメンツ社の全体の売上からすると小規模である。しかし、非常に利益の大きい事業でもある。
テキサス・インスツルメンツ社の事業報告書の中で電卓事業は「その他の事業」にまとめられているので、電卓事業が会社にどの程度の利益をもたらしているのかを正確に知ることは難しい。
「その他の事業」は2013年の営業利益の30.8%であり、テキサス・インスツルメンツ社の最も利益をもたらす事業であった。

「現在の他の家電製品と比べると非常に中身が少ない。」とバークレイズのアナリストであるブレイン・カーティス氏はTI-84 Plus について語った。
「プラスチック製の筐体、小さな白黒画面、2つの半導体チップしか搭載していない。バッテリーは携帯電話のような充電式ですらない。」
カーティス氏は TI-84 Plus(基本モデル)の製造コストを$15~$20と見積もっており、TI-84 Plus はテキサス・インスツルメンツ社に50%以上の利益マージンをもたらしている。

比較のために言及すると、PCメーカーは3%以下のマージンしか得ていない。
テキサス・インスツルメンツ社は TI-84 Plus 電卓のコストと利益マージンについてのコメントは拒否している。

「TI-84 Plus の代わりになるものはあります。しかし、学校は電卓を1種類に標準化する必要があり、TI社が学校電卓市場の競争に勝ち抜いたので、TI社は学校電卓で独占事業者になっています。」とカーティス氏は語った。
カーティス氏はバークレイズのためにテキサス・インスツルメンツ社を追跡調査している。

テキサス・インスツルメンツ社はその電卓の周囲にエコシステム(利益を生み出す体制)を構築しているので、一部で非常に独占的であり続けてきた。
そのエコシステムは1-800-TI-CARESのようなサービスで教師と生徒を満足させてきた。
(訳注:"1-800-TI-CARES"はフリーダイヤルで質問を受け付ける電話サービス)
1986年から10万人以上の合衆国の教師が教師向け技術研修に参加してきた。
その研修は個人向け講習とオンライン講習が提供されており、テキサス・インスツルメンツの電卓の使い方を生徒へ効率的に教える方法を教師に教えている。 

一度でもテキサス・インスツルメンツ社が教師と学区をその電卓に満足させると、事業を成功させるために低価格あるいは最先端ハードウェアの提供を求められたことはなかった。

「我々はこのプラットフォームを発展させ続ける必要があります。しかし、革新を目的として革新的になることはできないのです。」とテキサス・インスツルメンツ社の電卓部門の責任者であるピーター・バレイタ氏は語った。
「Wi-Fi、Bluetooth、オーディオ、カメラ、その他の多くのものを搭載することは我々にとって魅力的ですし、我々はそれが可能です。しかし、教師たちは我々にそのようなことを要求しません。我々が求めているツールは、若者が教室で使い、帰宅中に使い、宿題をするときに家で使い、そして若者にとって最も重要な試験の間に持ち込めることもできるツールなのです。」

生徒たちは代数学の宿題のためにスーパーコンピューターを必要としない。しかし、より価格競争力のあるグラフ電卓がテキサス・インスツルメンツの電卓のために$100を支出することに苦労している生徒たちを助けることがあり得るだろう。

カシオ計算機は価格でテキサス・インスツルメンツ社に対抗することを望んでいる。
TI-84 Plus の競合機種である fx-9860GII は希望小売価格$79.99である。
カシオの最も売れている機種である fx-9750GII は希望小売価格$49.99である。
低価格にも関わらず、カシオはその電卓の販売で依然として利益を得ていると言う。

しかし、グラフ電卓は価格が特に重要ではない市場でもある。
どのようなグラフ電卓を要求されても最終的に支払うのは教師ではなくて親なのである。
もしもあなたが他人に買い物をお願いしているならば、他人が高価なものを買うかどうかはあまり気にしないかもしれない。
(訳注:「あなた」=「教師」、「他人」=「生徒の親」と思われる。教師からすると生徒の親が高価なものを買わされても知ったことではないということだろう。)

「カシオに乗り換える場合、カシオの電卓を使用するのは簡単だと言えますが、わずかな学習が必要です。カシオの電卓のシステム設定はテキサス・インスツルメンツとわずかに異なるのです。我々が取り組んでいることの1つは、教師がカシオの電卓を学ぶためにどれくらいの時間がかかるのかを心配していることを解決することです。」とカシオのアメリカ国内トレーニングコーディネーターであるアミー・チョウは語った。
カシオ計算機はカシオの電卓の利点を教師に納得してもらうことを希望している。そうなれば、カシオの電卓の市場シェアは成長する。

スマートフォンは腕時計、カメラ、あるいは懐中電灯のような他の家電製品の需要を着実に減らしてきた。
グラフ電卓はその次に続くだろうか?
現在の平均的なスマートフォンは市場で流通しているあらゆるグラフ電卓より遥かに多くのメモリとより解像度の高い画面を搭載している。
しかも無料のグラフ電卓アプリまで利用できる。
しかし、スマートフォンはSAT(大学進学適性試験)やACT(アメリカ大学試験)のような標準化された試験で使用できない。
当然のことながら学校は教室で生徒にスマートフォンを使わせることに乗り気ではない。
教室で生徒は授業にそっぽを向いてその代わりに友人にメールを送ったり、ゲームをプレイすることを選ぶかもしれない。

今のところ、過剰な価格のついたハードウェアであるTI-84シリーズ電卓はグラフ電卓市場の頂点に留まり、消えてしまうことはなさそうである。

以上

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