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最後のRPL言語搭載グラフ電卓 HP 50g(ハードウェア編)

今まで 4 Level RPN とRPL言語の説明を長々としてきましたが、ようやくヒューレット・パッカード社(以下HP社)のHP 50gのことについて書けます。

このグラフ電卓を理解するにはそれなりの前提知識が必要ですので、4 Level RPNとRPL言語の説明をしてきました。

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というわけで、2016年10月に入手したHP 50gについて書いてみたいと思います。
今までに3つ記事を書いた TI-84 Plus CE とは段違いの機能の多さを誇ります。
その代わり操作の難易度もグラフ電卓史上最高かもしれませんが、それについては次回で書きます。

HP 50gを使うには当然のことながら英語力必須です。

 

目次

 

HP 50gの梱包

ここでは開封時(2016年10月)の写真を載せます。
HP 50gは他のアメリカの電卓と同様にブリスターパックに梱包されて販売されています。

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ブリスターパックの上部をハサミで切って開封することになっています。開封後は元に戻せません。

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付属品は以下のものが全てです。本体、単4電池、CR2032ボタン電池、mini USBケーブル、ソフトケース、Quick Start Guide、付属CDです。

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HP 50gとTI-84 Plus CEの大きさ比較

ここからは2017年2月に撮影したHP 50gの写真です。

下はTI-84 Plus CE(スライドケースなし)とHP 50gの比較写真です。右がHP 50gです。

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下はTI-84 Plus CE(スライドケース装着)とHP 50gの比較写真です。右がHP 50gです。

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側面から見ると厚みの差が分かります。
下図の左がスライドケースを付けたTI-84 Plus CEです。右はHp 50g。

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下図の左はスライドケースを外したTI-84 Plus CEです。HP 50gとかなり厚みが異なります。

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写真を見ても分かるように長さはTI-84 Plus CEの方が長いのですが、厚みはHP 50gの方が分厚いです。TI-84 Plus CEは特殊形状バッテリーを内蔵し、HP 50gは単4電池4本を内蔵するという違いによるものでしょう。

HP 50gの外観

ここからはHP 50gだけを見てみましょう。

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見ての通りボタン数が多く51個もあります。本体やボタンにもこれでもかと言うくらい文字が印刷されています。

その上、シフトキーが3つ( ALPHA(黄)、左シフトキー(白)、右シフトキー(橙))もあって1つのキーに多くの機能が割当てられています。左シフトキーと関連したキーは45個、右シフトキーと関連したキーは39個ですので、合計で84もの記号と機能が2つのシフトキーに割当てられています(カーソルキーとの組合せは除く)。

その上、アルファベットキーで26の大文字が入力できます。アルファベットキー+左シフトキーと組合せて26の小文字も出せます。
アルファベットキー+右シフトキーと組み合わせるとギリシャ文字13文字と特殊文字6文字を出せたりもしますが、ボタンや本体に印刷されていません。

ボタンや本体に印刷されていない文字を入力するために右シフト+EVALで文字入力画面を出すこともできます。

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側面はほぼ左右対称です(厳密に言うと"hp"の刻印は左右対称になれない)。
手前に膨らんでいる部品(hpの刻印が入っている部品)が少しだけザラザラとしていて手で握った時に少し滑りにくくなっています。

 

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上はHp 50gの上端の写真です。

左の端子はmini USB端子です。右の端子は独自形状のシリアルポートです。中央にIrDA(赤外線通信)があるのですが、黒いプラスチックに覆われて見えません。

右のシリアルポートは "user's guide" にRS-232と書かれているのですが、電圧は3.3VとRS-232の規格(±5V~±15V)より低い上に端子形状が独自です。つまり、そのままではRS-232として使えません。

しかし、HP社はこのシリアルポート専用のケーブルを販売しませんでした。
その代わり、hpcalc.org がケーブルを販売しています。レベルシフトもしてくれるようです。

HP 50g RS-232 Serial Cable
http://commerce.hpcalc.org/serialcable.php

 

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上はHP 50gの下端の写真です。SDCARDが入るようになっています。

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SDCARDは裏面を上にして入れます。

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基本的には1GBのSDCARDしか使えないのですが、2GBのものでも非公式だが使えるとのネット情報もあります(ただし、2GB中の1GBしか使えない)。2GBよりも大きいものは完全に認識できませんので、要注意です。

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中国製です。中央より下の文字が入った部分に小さなRESETの穴が開いています。

電池フタを開ける

電池蓋を開けてみましょう。

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私は単4のエネループ4本を使っています。付属のアルカリ電池は2ヶ月で消費しました。激しく使う人なら1週間程度で消費するかもしれません。

次にバックアップ用電池CR2032を外してみましょう。
単4電池とCR2032を同時に外すと{HOME}ディレクトリの内容が全部消えます。ですので、CR2032を外す前に単4電池を再び入れておきます。

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CR2032ボタン電池のフタ(Plate)の右側にある出っ張り(Holder)の穴をボールペンで押さえながら、フタを右にずらすとフタが外れます。このフタの外し方は独特だと思いました。少なくとも自分は初めて見た方式です。

液晶画面

ご覧の通り画面解像度は白黒131×80画素とかなりの低解像度です。階調表現もできません。

ただし、hpgcc3.org が作成した newRPL をインストールしたときに階調表現ができるので、ハードウェアは階調表現に対応しているようです。

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メモリ構成

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上の写真はHP 50gのファイルマネージャーという機能を使ってHP 50gのファイルシステムを表示しているところです。

液晶画面の左側の数値をポート番号といいます。
HP 50gではメモリの種類をポート番号で分類します。

ポート0 : IRAM - 最大241KBのRAMです。{HOME}ディレクトリを格納しています。

ポート1 : ERAM - 最大128KBのRAMです。"user's guide"にはIRAMと分かれている理由は書かれていません(バンク切替の都合?)

ポート2 : FLASH - 内蔵フラッシュメモリです。容量は2MBあるのですが、OSが1MBほど使うので、余りは1MB以下です。

ポート3 : SD - SDCARDです。容量は1GBしかありません。

Home - デフォルトのカレントディレクトリです。ポート0 : IRAMの一部です。通常はここに変数、プログラムなどを保存します。自分でディレクトリを作ることもできます。

CASDIR - CASが使用するファイルを置く場所です。Homeの中に自動的に作成されます。

バックアップ用電池CR2032はポート0 : IRAM、ポート1 : ERAM、Home(当然CASDIR含む)を維持しています。

ちなみにポート0 : IRAMとポート1 : ERAMの最大容量を合計しても369KBしかありません。HP 50gのRAMは512KBですので、512KB-369KB=143KBはOSが使用している可能性があります。

キーボード

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押した感じは少し固め、キーストロークは短めです。クリック感はプチっとした感じです。しっかりと押さないといけないので、早打ちには向いていないと思います。
キーの大きさがまちまちなので、キーが探しにくい気がします。
キーの中でも最も小さいファンクションキー(液晶画面の下に並んでいる6つのキー)は小さすぎて押しにくいと思います。

しかし、TI-84 Plus CEのキーボードよりは押しやすいと思います(クリック感が弱くて、押し始めにキーがわずかにグラつくため)。

ハードウェア総評

解像度の低い液晶画面(131×80画素)、1GBしか使えないSDCARD、分厚い本体、機能ボタンだらけのキーボード。2006年発売開始だとしても古い感じは否めないと思います。HP 50g 発売年から8年前の1998年に発売されたTI-89ですら液晶解像度は160×100画素はあったのですから。

結局、ARM9 CPU 75MHz+Saturn CPUエミュレータの限界だったと思います。
Saturn CPU搭載電卓(HP 48シリーズ、HP 49G)との互換性を維持するためにわざわざ 4bit Saturn CPU をエミュレーションするのですから速度は期待できません。
速度が遅いのに画面解像度を大幅に上げることはできなかったでしょう。

(補足)HP 39gII(2011年発売)は ARM 80MHz + Saturnエミュレータ搭載でも256×128画素というある程度の高解像度を実現しています。HP 39gII の数学ライブラリがARMコードになっているため、HP 39gII は Saturn CPUエミュレータを迂回して動作することが多いのです。そのため、HP 50g よりも高速に動作します。

それでも HP 50g は 対抗機種の TI-89 Titanium(MC68000 16MHz)よりは高速に計算できます。 Saturn CPU は MC68000 よりも時代遅れです。しかし、Saturn CPU エミュレータを実行している ARM9 は MC68000 よりも進んだ CPU です。 ARM9 75MHz は MC68000 16MHz より圧倒的に高速です(MC68000は命令パイプラインがなく、1命令実行に必要なクロック数も多いので、ARM9 と同一クロック周波数でも ARM9 より遅い)。そのため、Saturn CPU エミュレータという足枷があっても HP 50g は TI-89 Titanium より高速になったようです。

ただし、HP 50g は TI-89 Titanium よりも計算精度が低いことが多く、操作も TI-89 Titanium より複雑です。画面解像度もTI-89 Titanium より低解像度です。単純に速ければ良いとは言えません。結局、TI-89 Titanium の方が売れたのですから。

HP 50g の本体が分厚いのは単4電池4本のせいですが、TI-84 Plus CEのような特殊形状の内蔵充電式電池が必ずしもいいとは思えません。上の写真を見てのように薄くできる利点はあります。しかし、TI-84 Plus CEを使っているときに電池残量が少なくなってもスマホの充電器は使えません。なぜならスマホの充電器はmicro USBだからです。TI-84 Plus CE は mini USB です。HP 50gのように単4電池4本+CR2032なら入手性は高いし、コンビニで売っている電池交換式のスマホの充電器(1000円前後)よりも安いはずです。

HP 50gは古いところが多いグラフ電卓ですが、過去の機種から長年の機能を積み上げた結果、その機能は物凄い量になっています。

しかし、お勧めできる人がいるとしたらRPL言語が好きな昔からのHP電卓マニアだけなのかなという気もします。
あるいは私のようなもの好きか。

補足ですが、HP 50gは2015年に製造終了となったので、最近在庫がなくなってきたのか価格が高騰しています。私が購入した2016年10月だと1万円±1,000円程度だったのですが、2017年2月28日にAmazon.co.jpで確認すると14,000円程度に高騰しています。
最後のRPL言語搭載電卓としては貴重ですから価格が高騰するのも当然かもしれません。

以上です。

次回は「最後のRPL言語搭載電卓 HP 50g(ファームウェア編)」を書く予定です。 

 

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