[一覧へ]
▼ 修正履歴

HP Prime

HP Prime 正面写真 メーカーHewlett-Packard(ヒューレット・パッカード) ※2015年11月以降は HP Inc.
型名HP Prime (初期型:NW280AA、第2モデル:G8X92AA)
種別グラフ電卓(CASあり/CASなし切替可能)
発売開始2013年10月(初期型:NW280AA)、2014年5月(第2モデル:G8X92AA)
製造終了-
寸法 奥行182.3mm x 幅85.8mm x 厚さ13.9mm(初期型:NW280AAのメーカー公表値)※第2モデル:G8X92AAの実測だと幅は85.0mm
奥行約185mm x 幅93mm x 厚さ17.5mm(第2モデル:G8X92AAのスライドケース背面装着時の実測値)
重量228g(初期型:NW280AAの公表値)
198g(第2モデル:G8X92AAのスライドケースなしの実測値)
242g(第2モデル:G8X92AAのスライドケース装着時の実測値)
入力方式教科書表示方式、ライン表示方式、RPNモード(CASなし時のみ)
画面320×240画素(16bitカラー)
CPUARM9 400MHz
RAMMobile DDR 32MB
ROM/Flashフラッシュメモリ 256MB
電源充電式内蔵バッテリー 484461AR(3.7V 1500mAh (5.55Wh))
プログラミング言語PPL (Prime Programming Language)
公式ページHP Prime Graphing Calculator
説明書URLHP Primeグラフ電卓 - ユーザーガイド
著者の購入年2017年5月
著者の購入価格(購入店)$121.69(Amazon USA マーケットプレイス)※送料、税関費用などは別

概要

スマートフォンのようなタッチパネル搭載、CAS(数式処理システム)の有無の切替が可能な高性能グラフ電卓です。 その計算速度はライバル機 TI-Nspire CX CAS を圧倒しています。

ヒューレット・パッカード(以下HP)の最上位機種だった HP 50gHP 39gII が時代遅れになり、その代替として開発された機種です。 ただし、HP Prime が HP 50g や HP 39gII の後継機種と言えるのかどうかは微妙です。 それらの機種と違って、Saturn CPU エミュレータを搭載しておらず、OSはARMコードで書かれています(HP 50g と HP 39gII のOSはSaturn+コード)。

操作性は HP 39gII を発展させたような感じです。プログラミング言語 PPL は HP 39gII のプログラミング言語(注)に似ています。 HP 50g のRPNモードからRPL言語を削除したようなRPNも搭載されています(CASなし時限定)。

しかし、これらの機種とはハードウェアとOSが完全に別物であり、従来のHPグラフ電卓を一から仕切り直したものと考えるべきでしょう。

ちなみにWindows用のエミュレータが無料公開されています。

HP Prime Virtual Calculator Emulator
http://www.hpcalc.org/details/7468

(注)HP-BASICと言われることもありますが、正式な名称かどうかは不明です。後述します。


レビュー

本レビューは ソフトウェバージョン "2016 08 29 (10637)" に基いています。

目次

  1. ハードウェア
  2. CASの有無を切替可能な唯一のグラフ電卓
  3. 改善した操作性
  4. アプリケーションの概念はHP_39gIIに似ている
  5. プログラミング
  6. 完成度の低い説明書
  7. PC接続ソフト "HP Connectivity Kit"
  8. 総評

ハードウェア

私が入手した HP Prime は第2モデル:G8X92AAです。
英語版Wikipediaによると、2016年8月から第2モデルのキーの色合いを変更した新モデルが発売されたようです(型番は同一)。

下のリンクがその違いを示した海外サイトの投稿です。その投稿の写真の左側が第2モデルの旧型(数値キーが濃い灰色、水色と橙色の文字)です。右側が第2モデルの新型(数値キーが薄い灰色、濃い青色と濃い橙色の文字)です。

Both Prime color schemes
http://www.hpmuseum.org/forum/thread-6916.html

私の買ったモデルは購入時のソフトウェアバージョンが 2016 04 16 (10024) だったのですが、外観を見る限り明らかに新型です(上の写真だと分かりにくい場合は画像集で確認してください)。 どうやら2016年8月以降に製造したものでも少し古いソフトウェアをインストールしているようです。 新しすぎるソフトウェアをインストールして市場に出すのは危険なので、ファームウェアが書換可能な製品ではよくあることです。 私は本機を入手後、すぐにソフトウェアを 2016 08 29 (10637) に書き換えました。

本サイトの「電卓ベンチマーク01(三角関数を含んだ式の総和)」と「電卓ベンチマーク02(三角関数を含んだ式の積分)」を見てもらえれば分かるように2017年6月現在、他に敵なしの高速演算性能です(安定性に多少難があるようですが)。 ARM9 400MHzの性能は伊達ではありません。 それなのに TI-Nspire CX CAS よりも小型です。

タッチパネルは非常に便利です。 数式の修正をするときに方向キーを何度も押す必要はありません。 数式の修正したい部分に指先を置くだけでカーソルがそこに移動します。 カーソル位置の微調整だけ方向キーでやればいいのです。 カタログからコマンドを探したり、計算履歴を見たり、画面からはみ出した数式を見るときもタッチパネルでスワイプ操作(掃くような操作)をすればいいだけです。 このように方向キーの連打から解放されたのです。

キーの感触は良くありません。 キーを押し込んでクリック感が発生した後でもキーに押し返されているような感覚がします。 そのためか嫌な感覚が指先に残ります。 HP 12c Platinum や HP 50g のキーの場合、キーを押し込んでクリック感を発生させるとキーがあまり反発しなくなります。

数値キー(0〜9)の形状も問題だと思いました。各数値キーが無駄に横長なので、指を左右に大きく動かす必要があります。 その反面、縦に短いので、上下に短く動かす必要があります。 そのため、指が動かしにくく感じます。ここは人によると思いますが、私は数値キーの形状に問題があると思いました。

液晶画面は左右の視野角は広いようです。下から見上げた場合は画面が暗くなります。上から見下げた場合は画質が悪化します(液晶画面はロットによって異なる可能性があります)。 TI-Nspire CX CAS と画面解像度は一緒ですが、HP Prime の液晶は TI-Nspire CX CAS よりも一回り大きいので、見やすく感じます。タッチパネルを搭載するために大きめにするしかなかったのでしょう。

▲レビューの先頭へ

CASの有無を切替可能な唯一のグラフ電卓

通常はCASなしのグラフ電卓とCASありのグラフ電卓は別に作られます。

以下のようにHP、テキサス・インスツルメンツ(TI)、CASIOは以下のようにCASなし機種とCASあり機種を分けてきました。

このように分けないといけない理由は、CASあり電卓の持ち込みを禁じている試験があることと、CASがあると操作が複雑になるのでCASを嫌う人もいるからです。

ところが、HP社は HP Prime でCASなし電卓とCASあり電卓を統合してしまいました。 CASの有無の切替は容易です。電卓の左上にある[Home]ボタン(家型のマークのボタン)を押せば、Home表示(CASなし)になります。 電卓の右上にある[CAS]ボタンを押すと、CAS表示(CASあり)になります。 それぞれの表示は計算履歴を別々に持っています。変数も別になっています(大文字変数がHome表示用、小文字変数がCAS表示用)。

Home表示
Home表示
CAS表示
CAS表示

各画面の上の方に表示している「関数」は起動中のアプリケーションの名前です。計算操作には影響ありません。

各表示で計算履歴が分かれているため、[Menu]ボタンを押すとHome表示-CAS表示の間で計算履歴をコピーするメニューが表示されます(下図)。

Home表示-CAS表示の間で計算履歴をコピーするメニュー

CASなし電卓とCASあり電卓を統合したため、手軽に計算する時は操作の簡単なHome表示を使い、CASを使って複雑な計算をするときはCAS表示を使うことができます。 しかし、CASの有無を切替可能だとしてもCASあり電卓であることに変わりはないので、アメリカ合衆国の大学入試試験ACT試験では持ち込みが禁止されています。

ACT Calculator Policy (Effective November 7, 2016)
http://www.act.org/content/dam/act/unsecured/documents/ACT-calculator-policy.pdf

Exam Mode(試験モード)を使えば、CASの使用を禁じることも可能ですが、HP Prime の Exam Modeに問題があるので、ACTは認めなかったのでしょう。 と言いますのも Exam Mode になっているかどうかは HP Prime の上部にある LED が点滅しているかどうかで容易に分かるのですが、Exam Mode がCASを禁止にしているかどうかは複雑な設定を確認しないと分からないからです(Exam Modeのデフォルト設定ではCAS使用可能になっている)。 しかも Exam Mode はパスワードで解除できるように設定することもできます。 このような仕様のため試験監督が HP Prime がCAS禁止になっているのかどうかを完全に確認するのは困難と言えるでしょう。

▲レビューの先頭へ

改善した操作性

操作性は HP 50g や HP 39gII から改善したと言えるでしょう。

ツールボックスメニューを呼び出すボタン
ツールボックスメニューを呼び出すボタン
ツールボックスメニュー
ツールボックスメニュー

ツールボックスメニューのおかげで計算関連メニューがほとんど統合され、HP 50g のように機能呼び出しキーが狂ったように多くなることを防いでいます。 計算機能以外のアプリケーションライブラリ、プログラムカタログ、そして 注記(Notes)は、それぞれ[Apps]、[Shift]+[1]、[Shift]+[0]と操作して呼び出します。 メインメニューのようなものがないので、機能の呼び出し方が統一されていないのです。ただし、キーで呼出す機能が少ないので、操作は難しくなっていません。

[Menu]ボタンに関しては少し分かり難いと感じました。 通常、[Menu]ボタンは「Home画面とCAS画面間のコピー」と「教室内ネットワークのメッセージ送信」に使うだけです。 状態によってはそれ以外の機能も追加されます。 つまり、[Menu]という名前は「名が体を表していない」のです。 [Etc](その他)、[Others](その他)、[Misc](種種雑多なもの)のような名称の方が良かったのではないでしょうか。

▲レビューの先頭へ

アプリケーションの概念はHP 39gIIに似ている

HP Prime は電卓機能、プログラミング機能、そして Notes 機能を除いては、アプリケーションで機能を実現しています。 グラフ描画、表計算、ソルバー、統計、推論、図形描画そして金融計算はアプリケーションになっています。

HP 39gII に由来した[Apps][Symb][Plot][Num][View]ボタンに加えて[Menu]ボタンをアプリケーションの操作に使います。 複数のアプリケーションのために共通のボタンを用意しているところは HP 39gII に似ています。 アプリケーションの操作方法の共通化をするためでしょう。

[Apps]ボタンを押すとアプリケーションライブラリが表示されます。 各アプリケーションはアイコンとして表示されます。

HP Prime はアプリケーションのコピーを作成して、コピーされた各アプリケーションに個別のデータと状態を持たせることができます。
例えば、関数アプリケーション(基本的なグラフ描画をする機能を持つ)をコピーして、コピーされた関数アプリケーションに別の関数を設定して、別のグラフを描画させることができます。 毎回、関数を設定し直したり、グラフ描画の設定を関数毎に変更する手間を省略することができます。 下図は「関数」アプリケーションをコピーした「関数A」が表示されています。

関数Aアプリケーションのアイコン 「関数A」に設定された3つの関数 関数Aのグラフ描画

「関数A」に設定された3つの関数(F1,F2,F3)はコピー元の「関数」アプリケーションに影響しません。 「関数」と「関数A」アプリケーションはそれぞれ別の関数を持って動作できます。

アプリケーションのコピー作成機能は、TI-Nspireシリーズの Document(電卓のあらゆる機能とその状態を保存できるファイル)と比べると貧弱ですが、Document の影響でTI-Nspireシリーズは電卓らしくない操作性になり、操作手順も多くなっています。 その反面、HP Primeは電卓らしい操作性を保ちつつ操作性を改善した感じです。

ただし、アプリケーションのコピーが増えると、アプリケーションライブラリにアイコンが大量に表示されて見辛くなるという欠点があります。

ちなみに HP Prime は HP 50g にあった3Dグラフ描画機能を搭載していません。 HP 39gII に3Dグラフ描画機能がなかったので、その影響でしょうか。

ファームウェア 2018 01 24 (13333) から3Dグラフアプリが標準搭載されるようになりました。
そのため、下記の非公式アプリ(Graph 3D)を使う必要はなくなりました。
とは言え、2013年10月に発売された本機が4年以上かかって3Dグラフに対応したのはあまりにも遅く、下記のアプリが果たした役目は大きかったでしょう。

その代わり、非公式の無料アプリケーションをPC接続ソフト(後述)でインストールして3Dグラフ表示が可能です。

Graph 3D
http://www.hpcalc.org/details/7440

上のURLから graph3d.zip (version:2.425) をダウンロードすると、中に graph3d.pdf というファイルが入っていますが、何故かPCエミュレータを経由した手間のかかるインストール方法しか書かれていません(過去の方法なのでしょうか?)。
普通のインストール方法は http://www.hpmuseum.org/forum/thread-95.html の"How to install this app:"に書かれています。

Graph3D アプリケーションのアイコン Graph3D による3Dグラフ描画
▲レビューの先頭へ

プログラミング

HP 39gIIのプログラミング言語を拡張したPPL(Prime Programming Language)という言語を使います。 PPLとHP 39gIIのプログラミング言語は Pascal を動的型付け(変数代入時に変数の型が決まる)にしたような言語ですので、比較的素直な言語です。 HP 50gのRPL言語のような強烈なクセはなく習得は比較的容易です。

PPLの前身のHP 39gIIのプログラミング言語は HP-BASIC と呼ばれることが多いようです。 しかし、"HP 39gII graphing calculator user's guide"( Edition 2 May 2012 )によると、プログラミング言語の名称は特に書かれていません。 どうやら便宜上、HP-BASICと呼ばれているようです。

(参考資料)
"HP 39gII graphing calculator user's guide"( Edition 2 May 2012 )
ここのDownloadを押すとPDFファイルが取得できます。

ちなみに測定機用のHP-BASICとは完全に別物です。測定機用のHP-BASICは行番号を入力する古典的なBASICです。

HP Prime のPPLのプログラミングはプログラムカタログから始まります。

プログラムカタログ

プログラミング方法は以下の2種類があります。

  1. 通常のプログラミング
  2. カスタムアプリケーション

通常のプログラムをしたいときはコンテキスト依存メニュー(画面の下に表示されている6ボタンのメニュー)の[新しい]を選択して、プログラム名とCASを使うかどうかの決定をするだけです。 例えば、SAMPLEという名前のプログラムの新規作成と作成直後の画像は以下のようになります。

新規プログラムの名前をSAMPLEに決定
新規プログラムの名前をSAMPLEに決定
新規作成時のSAMPLE
新規作成時のSAMPLE
プログラムカタログに表示されたSAMPLE
プログラムカタログに表示されたSAMPLE

通常のプログラミング機能でも自由なグラフィックス描画ができます(関数グラフ描画ではない)。 そのため、PPLで作られたゲームなども公開されています。

HP Prime Games (後述のカスタムアプリケーションも含まれている)
http://www.hpcalc.org/prime/games/

一方でカスタムアプリケーションとは、「既存のアプリケーションを改造・拡張したプログラム」です。 今のところ HP Prime で一からアプリケーションを作成することはできないようです。 そのため、アプリケーションを作りたい時は、カスタムアプリケーションを作るしかありません。 これはかなり変わった概念だと思いました(HP 39gIIもこの機能がある)。

上のプログラムカタログの画像の一番上に表示されている「関数(App)」をクリックすると、電卓に工場出荷時から入っている「関数アプリケーション」を改造・拡張して、カスタムアプリケーションを作ることになります。選択中のアプリケーションがプログラムカタログの一番上に表示されます(ここの操作は直感性がなさすぎる)。

しかし、普通は改造・拡張したいアプリケーションを別名でコピーしてからカスタムアプリケーションにします。 例えば、関数(App)を改造・拡張したい場合、関数アプリケーションをアプリケーションライブラリから選択して、 コンテキスト依存メニューの[保存]を選択。そして、別名を付けてアプリケーションをコピーします。 ここでは「HOGE」としましょう。

関数(App)のアイコン 新しいアプリ名を選択 新しく作成された HOGE アプリケーション

そして、コピーしたアプリケーション(HOGE)を選択してからプログラムカタログを起動します。

プログラムカタログに表示された HOGE (App)

プログラムカタログの一番上にある項目にコピーしたアプリケーション(HOGE (App))が表示されていたら、それをクリックしてコーディングを始めます。

HOGE (App) の初期コード

カスタムアプリケーションを作るには、そのための特別な知識が必要です。

先述の Graph 3D というアプリケーションもカスタムアプリケーションです。
Graph 3D に付属の graph3d.pdf によると「高度なグラフ作成(Advanced Graphing)アプリケーション」をカスタムアプリケーションにしたもののようです。

▲レビューの先頭へ

完成度の低い説明書

HP Prime の説明書はこのページの一番上にある表の「説明書URL」のリンク先に多数あります。 基本的な説明書は以下の2つでしょう。日本語版もあります。
※ページ数は PDF閲覧ソフト Acrobat Reader が表示する全ページ数です。

(英語版)
・HP Prime Graphing Calculator Quick Start Guide (Second Edition: March 2016) (52 pages)
・HP Prime Graphing Calculator (Second Edition: September 2016) (701 pages)

(日本語版)
・HP Primeグラフ電卓 クイック スタート ガイド (改訂第1版: 2016年3月) (55 pages)
・HP Prime グラフ電卓 (改訂第1版:2016年9月) (694 pages)

最初に「クイックスタートガイド」を読んで、次に詳細に調べたいところを「HP Prime グラフ電卓」で調べるということになるでしょう。

問題は英語版の完成度が低い上に日本語版はさらに酷いのです。

もちろん説明書は一部しか読んでいないのですが、酷い間違いがあります。 "HP Prime Graphing Calculator"(Second Edition)のP559にこのように書かれています。

The syntax is Var ▶ Value; that is, the value on the right is stored in the variable on the left.
(文法は 変数 ▶ 値 です。つまり、右側の値が左側の変数に格納されます。)

そもそも"Var ▶ Value"(変数 ▶ 値)が間違っています。"Value ▶ Var"(値 ▶ 変数)が正しいのです。 しかし、説明書を書いた人はその間違いに気が付かずにさらに「右側の値が左側の変数に格納されます」という間違いを書いてしまっています。 おそらくHP電卓の知識がない人が書いたのでしょう。説明書を外注で作成しているのでしょうか。

キー操作を説明するところの間違いはかなり多く感じました。 "HP Prime Graphing Calculator"(Second Edition)のP469の"Working with variables"(変数を使う)のところに値5を変数Aに代入する操作方法が書かれているのですが、[Vars]物理ボタンで表示するべきところを存在しないコンテキスト依存メニューの[Vars]にしてしまっています。 これと同じように物理ボタンと画面上のコンテキスト依存メニューをごちゃまぜにしているところが多数存在します。

紛らわしい間違いもあります。"HP Prime Graphing Calculator"(Second Edition)のP491にこのように書かれています。

For example, the speed of light is approximately 300,000 m/s. If you wanted to use that in a calculation, you could enter it as 300_km/s, with the prefix k selected from the prefix palette.
(例えば、光速は約300,000 m/sです。計算でその値を使いたかったら、300_km/sと入力できます。プレフィックスkはプレフィックスパレットで選択して下さい。)

正しい光速は 299,792,458 m/s なので、おおよそ 300,000,000 m/sが正解です。つまり、電卓上で入力する時は 300000_km/sが正解です。 ここのところは物理の知識があれば、説明書を書いている途中であれ?と思うはずです。

他にも多くの間違いを見つけましたが割愛します。 これが初版ならともかく改定された Second Edition(日本語版の改訂第1版に相当) ということに驚きます。 英語説明書を外注で作るのはHP社の勝手ですが、HP社で内容の確認だけはできなかったのでしょうか。

日本語版の「HP Prime グラフ電卓」(改訂第1版)はもっと酷いものです。 上の英語版の間違いは間違えたまま日本語翻訳されています。 さらに誤訳まで混じっているので、英語版と一緒に読まないと意味が分からない箇所がありました。

「HP Prime クイック スタート ガイド(改訂第1版) 」のP26に凄まじい誤訳があります。
関数アプリケーションの機能として「任意の変数の値に対する関数の値の一覧表を作る」機能があります。 その機能を呼出す「数値タイプ」という項目に選択肢が2つあります。「自動」と「独自をビルド」です。電卓も同じ誤訳で表示します。

関数 数値のセットアップ「独自をビルド」

「独自をビルド」に相当するところを英語版で確認すると"BuildYourOwn"となっています。 英語の命名も良くないのですが、直訳すると「あなた自身でビルド」なので、どう考えても「独自でビルド」にはなりません。
"BuildYourOwn"は「使用者が数値を任意に選んで関数値の一覧表を自分で作りましょう」程度の意味でしょう。 私が翻訳するなら意訳して「数値を任意に選択」程度にすると思います。

他にも「HP Prime クイック スタート ガイド(改訂第1版) 」P340に Negation(符号反転)を「否定」と誤訳していたり、P344で Modulus(法) を「係数」と誤訳しています。 このような誤訳が他にも多くあり、電卓の知識も数学の知識もない人が翻訳しているのは間違いないでしょう。 日本語訳を翻訳会社に丸投げして確認もしていないのです。

ちなみにテキサス・インスツルメンツ社の TI-84 Plus シリーズと TI-Nspire シリーズは日本語説明書はありません。 その代わり英語説明書は誤りの少ない内容になっています。

▲レビューの先頭へ

PC接続ソフト "HP Connectivity Kit"

HP社から"HP Connectivity Kit"というソフトウェアが提供されています。 無料かつ登録不要で使えます。 付属CDあるいは以下のURLからダウンロードできます。

HP Connectivity Kit for Windows
http://www.hpcalc.org/details/7444
HP Connectivity Kit for MacOS
http://www.hpcalc.org/details/7798

機能は以下のようになっています。

下図が"HP Connectivity Kit"の画面です。

HP Connectivity Kit の画面

左上の「電卓」ペインに表示されている HP Prime が PC に接続された HP Prime です。 その下に表示されている「内容」ペインはPC側のファイルを表示しています。 PC側のファイルを電卓へ転送したいときは、「内容」ペインのファイルを「電卓」ペインの適切な場所にドラッグ&ドロップします。
例えば、「内容」ペインの Graph3D.hpappdir (先述の Graph 3D のファイル)を「電卓」ペインのアプリケーションライブラリへドラッグ&ドロップすると、Graph 3D アプリケーションが電卓に追加されます。

私の使った「ビルド: 2016 12 8. Rev:11226」は画面キャプチャ機能にバグがありました。 下の画像のようにファイル名に自分で適切な拡張子を付けないと保存できないのです。

画面を保存ウィンドウ

ウィンドウの下に「PNG画像(*.png)」と書かれていますが、.pngを自分で付けないと保存できません。明らかなバグです(画面はMac版だが、Windows版も同様のバグを持っていた)。

HP Connectivity Kit ( Build:2018 1 24. Rev:13333 ) からファイル拡張子のバグはなくなりました。

さらに別の問題もありました。 保存先のパスを覚えてくれないので、キャプチャ画像を一枚保存する度にパスを再指定する必要があります。 枠線の設定(キャプチャ画像を囲む白い枠線の太さの設定)も覚えてくれないので、画像キャプチャウィンドウを開く度に再設定する必要があります。 これらはバグとまでは言えませんが、Windows版もMac版も同様の問題を抱えていました。

さらにプログラム編集機能も貧弱でPPLコマンド入力をアシストする機能がありません。 完全に自力でコマンドを入力する必要があります。

現時点(2017年6月)では完成度の低いソフトウェアと言った感じでしょうか。 しかし、ビルド番号を見ると HP Prime が発売されてから3年以上経ってリリースされていることが分かります。 今後改善する可能性は低い気がします。

▲レビューの先頭へ

総評

2017年6月現在、ハードウェア的に最も進んでいるグラフ電卓なのは間違いないでしょう。 その圧倒的な高速性能、タッチパネル搭載、そしてリチウムイオン電池を搭載した小型の筐体であることがハードウェア的に最も進んでいることを示しています(ただし、特殊形状のリチウムイオン電池は入手性が良くないという欠点もあります)。

操作性は HP 39gII を発展させたような感じで、HP 39gIIよりも使いやすくなっていると思われます(HP 39gIIの英文説明書からの想像)。 難解な HP 50g と比べたら格段に使いやすくなっています。 特にシームレスな教科書表示入力、ツールボックスメニュー、そしてタッチパネルが操作性の改善に大きく貢献しています。

CASの有無を切替できるのは斬新ですが、この機能が成功しているかどうかは微妙です。 CAS付き電卓にも関わらず、CAS表示よりも操作の容易なHome表示(CASなし)が使えるという利点はあります。 その代わり、Home表示とCAS表示の2つの表示が同時に存在するので、却って操作が繁雑になることもあります。 それに試験機関からはCAS付き電卓とみなされているので、Home表示に意味があったのかどうかは微妙です。

RPNモードを搭載したのは意味がなかったと思います。 RPNモードと言っても HP 50g のRPNモードからRPL言語を削除したようなものです。しかもCAS表示で使えません。 HP Prime は基本的には HP 39gII を発展させたものなので、HP 50g のユーザーを取込むためにRPN入力も搭載したのでしょうけど、CAS表示で使えないRPNモードに意味はあるのでしょうか。 個人的にはRPNモードを完全に削除しても良かったのではないかと思います。RPNもRPL言語も時代遅れなのですから。

これだけ高性能なのに HP 50g と TI-Nspire CX CAS にもある3Dグラフ表示機能がないのは意外でした。 非公式な無料アプリケーション(Graph 3D)で一応表示可能ですが、インストールの手間といつまでメンテナンスしてもらえるのか分からないことを考えるとやはり最初から入れておくべき機能ではないでしょうか。

ファームウェア 2018 01 24 (13333) から3Dグラフアプリが標準搭載されるようになりました。
そのため、非公式アプリ Graph 3D を使う必要はなくなりました。

プログラミング機能は通常のプログラミングとカスタムアプリケーションの2つがあります。 通常のプログラミングでも自由なグラフィックスが使えたりするところは、TI-NspireシリーズのTI-BASICよりも遥かに自由度があります。 もう一つのカスタムアプリケーションは変わった機能です。 既存のアプリケーションを改造・拡張できるようにしてコーディングを楽にしたということなのでしょうか?

当サイトの「電卓ベンチマーク01(三角関数を含んだ式の総和)」に書いたように HP Prime は動作が不安定な面があります。 このベンチマークのような高負荷の計算をしない限り問題は発生しないかもしれませんが、高負荷試験で問題を起こすソフトウェアは潜在的なバグを抱えていることが多いのです。HP社による修正が待たれます。

説明書は一度改定しているにも関わらず、英語版・日本語版ともに完成度が低いとしか言えません。 説明書の完成度が低すぎて、ある程度グラフ電卓に関する知識がないと読むのが難しくなっています。 グラフ電卓の知識がある人でも説明書に間違いが多いので読んでいてイライラするでしょう。

前述のようにPC接続ソフトウェア "HP Connectivity Kit"(ビルド: 2016 12 8. Rev:11226)も使えなくはないのですが、これも完成度が低いとしか言いようがありません。

2013年10月に発売されてすでに3年半以上が経過しています。 それにも関わらず、説明書とPC接続ソフトウェアは完成度が低く、発売から約3年後に配布された電卓のソフトウェア(2016 08 29 (10637))は未だに安定性に問題を抱えています。 いくら高性能でもHP社のこのやる気のなさでは購入後のことを考えると不安になってしまいます。

▲レビューの先頭へ

[一覧へ]