電卓ベンチマーク01（三角関数を含んだ式の総和）

各電卓で上式の計算を行い、その計算にかかる時間を測定しました。
nの値は、10 ² , 10 ³ , 10 ⁴ , 10 ⁵ の4つです。それぞれの値で測定を行いました。

総和の計算は、加算を繰り返しているだけなので、電卓の演算速度を比較的素直に表していると考えられます。

目次

1. 数式の意味
2. 測定方法
3. CAS搭載電卓の測定について
4. SwissMicros DM42 の総和計算
5. HP 35s の総和計算
6. 測定結果

• n = 10 ²
• n = 10 ³
• n = 10 ⁴
• n = 10 ⁵

• HP Prime の CAS表示が不安定
• 下位機種の CASIO fx-9750GII が上位機種の CASIO fx-9860GII よりも高速
• CASIO fx-375ES と CASIO fx-915ES のわずかな計算時間の差について
• 電池電圧と太陽電池電圧の差によって計算速度に差が出る？

数式の意味

• 1秒単位で測定できるように長い時間がかかる計算にしています。
• 超越関数（三角関数、対数関数、指数関数のように有限の多項式で表現できない関数）の中でも特に重要な三角関数の計算速度を反映させるようにしています。
• 式中の sinx+cosx はx軸を挟んで上下対称なので、総和しても小さい値になります。そのため、+1を加えることによって大きな値になるようにしています。
• y = x(sinx+cosx+1)としたとき、y軸上の周期性をなくすために先頭のxを掛けています。
• ただし、x軸上の周期性はあります。しかし、数式を入力しやすいようにあまり式を複雑にしたくなかったので、このままにしています。

測定方法

• 角度はラジアン単位です。
• ストップウォッチで測定しています。そのため、1秒未満の値は信頼性がありません。
• ストップウォッチは ALBA PICCO STANDARD ADMD002 と ADMD010 を使用しました。2つとも同じ仕様であり、外観色が異なるだけです。
• 測定結果は1秒単位とします。さらに1秒未満は四捨五入するので、1秒程度過大な結果が出る可能性があります。
• 測定時間が1時間を大幅に超えると思われる場合は測定を行いません。

CAS搭載電卓の測定について

CAS（数式処理システム） 搭載電卓は通常操作において、超越関数や数学定数（π,eなど）を数値化しません。そのため、特殊な操作をしたり、設定を変更する必要があります。

• HP Prime（CAS表示） : CAS設定を Exact:OFF に設定して結果を数値で出せるようにします（日本語表示の「正確」）。数式を入れてから[Enter]を押すと数値結果が出ます。Exact:ONでも数値結果を出す方法はありますが、不安定で使い物になりませんでした。後述します。
• HP 50g : RPNモードに設定。CAS設定をApprox:ONにすると結果が数値で出るようになります。そして数式をスタックに入れてから[EVAL]を押すと数値結果が出ます。RPNモードなので[ENTER]はスタック操作になってしまうため[EVAL]を使います。[→]+[ENTER]（"→NUM"）でも可。
• TI-Nspire CX CAS : 数式を入れてから、[Ctrl]+[enter]（≒の意）で数値結果が出ます。

SwissMicros DM42 の総和計算

SwissMicros DM42 は、「統計の総和」はあるのですが、「数式の総和」を計算する機能はないようです。
そのため、数式の総和を求めるにはプログラムを組むしかありません。
しかし、他の機種と公平な比較にはならないかもしれませんので、参考までにして下さい。

2021年5月16日の3回目測定は、以下の「プログラム BM01B」を使いました。以前の「BM01A」よりも整理されたコードです。
「プログラム BM01B」は、特に効率を追求したものではありません。
[XEQ] [BM01B] と押して実行すると、"N?" と表示されますので、n の値を入れてから [R/S] キーを押すと計算が始まります。

DM42 は電池動作時とUSB給電時で CPU のクロック周波数が変化します。
電池動作時は 24MHz、USB給電時は 80MHz になります。それぞれのクロック周波数に対して測定を行なっています。

HP 35s の総和計算

HP 35s は、「統計の総和」はあるのですが、「数式の総和」を計算する機能はないようです。
そのため、数式の総和を求めるにはプログラムを組むしかありません。
しかし、他の機種と公平な比較にはならないかもしれませんので、参考までにして下さい。

今回は以下の「プログラム B」を使いました。
[XEQ] [B] [ENTER]と押して実行すると、"N?" と表示されますので、n の値を入れてから [R/S] キーを押すと計算が始まります。

測定結果

• この結果は特定の数式における結果であり、この結果だけで電卓の性能を判断しないでください。
• 測定結果は、電池電圧、太陽電池に入射する光の強さ、そして個体差によって変化します。この測定結果は参考程度にして下さい。

参考値としてwxMaxima（PC用数式処理ソフト）の計算結果（16桁）を使っています。参考値がどの桁まで正確なのかよく分かりませんが、ここで扱う電卓よりも高精度なのは間違いないと思われます。

参考値と異なる計算結果の一部は 赤字 にします。四捨五入を考慮して 赤字 にします。
例えば、参考値が1.235のとき、計算結果が1.23ならば、1.2 3 として、3を誤りとします。この場合、四捨五入を考慮して1.24が正解とします。

測定して気がついたこと

HP Prime の CAS表示が不安定

2018年7月20日に HP Prime のファームウェアバージョン 2.0.0.13865 (2018 07 06) がリリースされました。
このバージョンからやっと CAS表示で n = 10 ⁵ の結果を出せるようになりました（Exact:OFFのときのみ）。
それ以前のバージョンでは、CAS表示で n = 10 ⁵ の計算をすると電卓が再起動して結果が出せませんでした。

何故か CAS表示で n = 10 ⁵ の計算をすると、HOME表示よりも高速に計算できました。
n の数値が大きいので、CAS（数式処理システム）が計算を高速化するための何らかの工夫をしたのかもしれません。

しかし、CAS表示の Exact 設定（日本語表示の「正確」）に関するバグは未だに直っていません。
Exact 設定は以下のような機能です。

以前、測定に使ったファームウェア "2016 08 29 (10637)" は n = 10 ⁵ の計算が不可能でした。

下の表は、今回の測定に使った "2.0.0.13865 (2018 07 06)" です。2018年7月20日にリリースされました。
前述のように n = 10 ⁵ の計算が一応できます。

もっと新しいファームウェアも見ましょう。

2018年11月1日にリリースされた "2.1.14181 (2018 10 16)" です。
少し改善しましたが、Exact:ON のときに再起動するバグが未だに直っていません。

同じファームウェアの Windows や Mac のエミュレーターだと Exact 設定に関するバグは少なくなっています。

何故、エミュレーターの方が安定して動作するのかは不明ですが、エミュレーターの方がメモリが多いので、メモリー不足が発生しにくいという可能性はあります。
エミュレーターのリンク先は HP Prime の記事 の「概要」に記載されています。

下位機種の CASIO fx-9750GII が上位機種の CASIO fx-9860GII よりも高速

n=10 ⁵ のとき、下位機種の fx-9750GII の方が約9%程度高速です。 これは両機種のCPU性能がおそらく同一であり、fx-9860GII の方がファームウェアの構造が複雑なためと思われます（CPUはSH-4Aではないかと言われている）。 fx-9750GII はライン表示入力という古い入力方式を採用しており、ファームウェア構造は fx-9860GII より簡単です。 一方で fx-9860GII は教科書表示入力が可能である上にさらに機能も多くなっており、ファームウェアの構造は明らかに複雑でしょう。

CASIO fx-375ES と CASIO fx-915ES のわずかな計算時間の差について

n=10 ⁴ のとき、fx-375ES と fx-915ES の間に0.4%ほどのわずかな計算時間の差があります。 fx-375ES と fx-915ES は同じハードウェアと思われます（ROM容量の差はあるかもしれない）。 これらの電卓はファームウェアの違いで機能差を出しています。

通常の関数電卓のCPUクロックはCR発振を使っているものが多いので、この程度の誤差はあっても当然と思われます。

電池電圧と太陽電池電圧の差によって計算速度に差が出る？

n = 10 ⁵ のときの CASIO fx-JP900 の計算時間を測定していると、計算時間にばらつきがあることに気が付きました。 私は7回測定したのですが、1時間55分12秒〜1時間55分53秒と最大41秒の差がありました。 と言っても 0.6% 程度の差なのであまり気にする必要もないのかもしれませんが、どうやら太陽電池に光を照射しているかどうかで速度が変わるようです。

太陽電池を光から遮断すると1時間55分12秒になりました。
太陽電池にデスクライトの光を照射すると1時間55分53秒になりました。

この時間差は電池電圧と太陽電池電圧の差によって生じているような気がします。 ちなみに私が測定したときの fx-JP900 の電池電圧（LR44）は 1.477V（無負荷時）でした（店頭購入時の電圧は不明）。 fx-JP900 の太陽電池の電圧は不明ですが、測定時は LR44 よりも低かったのでしょう（強い光を照射すれば、太陽電池の電圧が LR44 の電圧を超える可能性もある）。

かと言って測定前に全機種の電池電圧と太陽電池パネルに照射する光の強さを揃えるのも難しく、本測定はあくまでも参考と言うことになります。しかし、大きな誤差は出ないと思います。